セイレーンの懺悔―電子書籍
概要
中山七里さんによる小説です。同小説を原作としたWOWOWオリジナルドラマもつくられています。
あらすじ
葛飾区で女子高生誘拐事件が発生。不祥事が続き番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のためのスクープを狙い事件を追っていきます。
感想
事件が起きると、テレビなどでその報道がなされます。事件の経緯や起きてしまった事実は、報道されても何ら問題はないでしょう。しかし、犯人の学生時代はどんな人物であったか、さらには卒業文集に書かれていた内容まで報道されてしまうことがあります。確かに、どうして犯罪を犯してしまうような人物が形成されてしまったかを語るうえで、学生時代のことを知るのは大切なことなのかもしれません。ただ学生時代に思っていたことや感じていたことと、実際に大人になり生活していくうえでの苦労や困難は、想像していた未来と現実とのギャップを感じてしまう、という思いは誰しもあるのではないでしょうか。本書では、テレビ報道が「ただの野次馬根性を満たすだけのものなのでは」といった問題提起もなされており、まさに的を射ていると感じました。
報道する側、放送する側も一企業です。視聴率という「ものさし」で計られてしまうのは致し方ないことでしょう。視聴率アップのために事件を物語に仕立て上げてしまうことや、お涙頂戴のストーリーにしてしまう気持ちもわからなくはありません。しかし、特にテレビなどで映像付きで流れてしまうと、たとえそれが誤報だったとしても、視聴者が真実であると思い込んでしまう恐ろしさはあると思います。また、凶悪犯罪の悲惨さを伝えることが抑止力につながるという考えもありますが、本当にそのような効果があるのかは疑問に感じます。
いまはテレビや新聞・雑誌はもちろんのこと、特にインターネットが大きな情報源になっているのは紛れもない事実でしょう。その中にはありもしない情報や誤報も含まれています。結局のところ、膨大な情報の中から何が真実で何がそうでないのかを、私たち自身が取捨選択していくしかないのでは、というのを強く感じました。

セイレーンの懺悔(電子書籍)
著者 中山七里
レーベル 小学館文庫
出版社 小学館